どうやら俺は、幾重もの罠に嵌められたらしい。
すべての始まりは、朝の通勤電車内で起こった事件だ。
いつものよう嫁に『行って来ます』を言い、資料の詰まった鞄を手に満員電車に滑り込んだ。
電車の混雑ぶりも、茹だるような熱気も、すべていつも通りだった。
目の前で制服姿の女子高生が窮屈そうにしていたが、それだって珍しい事じゃない。
けれども電車が2つ目の駅に着いた時、その日常は一変した。
「痴漢!!!」
目の前に立っていた女子高生が、突然俺の手首を掴んで叫ぶ。
俺は手首にじわりとした痛みを感じたまま、ただ呆気に取られてた。
俺はただ、大きな鞄を両手に持って電車に揺られていただけだ。
痴漢などしているわけがない。
「誰か、誰か助けてください!!この人が、私のあそこ触ってくるんですっ!!!」
女子高生はなおも表情を歪めて叫ぶ。その瞬間、周囲の俺へ向ける視線が変わった。
「この野郎!」
ガタイのいい数人が俺を取り押さえる。そしてそのまま、俺は駅員室へと連れこまれた。
「違う、誤解だ!俺は何もしてない!!」
俺は当然無罪を訴えたが、咽び泣く女子高生を前に、信用される事はない。
その後は『任意同行』での事情聴取との事だったが、断じて任意などではなかった。
警察官の1人が終始しっかりと俺の腕を掴んでいたからだ。
その後の刑事の取り調べも、事の是非を聞くのではなく、何故やったのか、その理由だけを尋ねてきた。
無罪にする気などないのだ。
一方、自称被害者だという女子高生は、いつも通りに学校へ通い、その帰りに俺の元に立ち寄った。
そして涙ながらに刑事にあらぬ嘘を吐いた後、立ち去り際に俺へ薄笑いを向ける。
その手元には、親指と人差し指で作った円マークが見えた。
はじめから慰謝料狙いでの演技だったのだ。
それを理解した途端、俺の中で何かがキレた。
もう何日にも渡って拘束され、会社を勝手に休まされ、寝かせてすら貰えていない。
嫁にさえ連絡できていない。
その精神的ストレスが積もり積もった上での女子高生の態度に、腸が煮えくり返った。
だがそれが、決定的なダメ押しとなる。
女子高生に襲い掛かる途中で取り押さえられた俺は、そこで完全に容疑者から『犯人』へ切り替わった。
痴漢行為も、同じく女子高生への歪んだ欲情から行ったのだろうと。
『犯人』になった後、俺にも弁護士がついた。
しかしその斉藤という弁護士もまた、俺の無罪を信じてはいないようだった。
勝ち目なしと思っているのか、無罪を主張するのではなく、罪を軽くする方法ばかり提案する。
当然、断固として無罪を主張する俺とは相容れない。
俺の絶望は一層深まった。頭を掻き毟るたびに抜け毛が落ちていった。
もし愛する嫁、絢子という存在がなければ、恐らく自殺していただろうと思う。
「……私は、アッちゃんを信じてるよ。アッちゃんが痴漢なんてするわけないって。
待ってて、何とかして保釈金用意して、ここから出してあげるから。
アッちゃんの好きな、パパイヤ入りの生姜焼き作るから、一生懸命作るから。
…………早く、一緒に食べよ……。」
絢子は、ガラス戸の向こうで涙ながらにそう訴えてきた。
同じ涙でも、あの女子高生が流すものとは悲壮感がまるで違う。
絢子自身もやつれて見えた。
小学校の頃から常に長く伸ばしていた黒髪が、今は首後ろまでで短く切り揃えられている。
見慣れない髪型だが、絢子なりに明るく気分を変えようとした結果なのだろう。
「……無理するな。保釈金ったって、そう簡単に用意できる額じゃないだろ。
痴漢の強制猥褻以外にも難癖つけられてる。弁護士費用と合わせて、350万だ」
俺は無理矢理表情を緩めながら答える。
事実、簡単に作れる金額じゃない。俺たちは結婚2年目、つい最近新居に越したばかりだ。
引越し費用に、家のローン、保険料……。
俺の稼ぎでは貯金どころか、毎月の光熱費を先延ばしにして何とか凌いでいる状態だった。
絢子もパートで支えたいと言ってくれるが、断ってきた。
俺の信条として、やはり母親は専業主婦で、子育てに専念してほしいからだ。
つまり、俺達には金がない。実家を頼ろうにも額が大きすぎる。
だから俺には、このまま拘留され続ける道しかなかった。
面会を終えた後も、俺は暗い留置場で絢子の事ばかりを考えていた。
初めて絢子に会ったのは小学校の時だ。
当時の絢子はクラスの女ボスという感じて、休み時間のたびに行うドッジボールでは、
ボールを持ったまま先陣を切って教室を飛び出すようなタイプだった。
けれども肌色は白めで、きりっとした瞳とポニーテールは何とも言えない色気があり、
またカラカラと笑っている印象しかないほどに笑みを絶やさない娘だった。
当然人気者で、いつも人に囲まれており、中学に入る頃には俺とは完全に違う世界に行ってしまっていた。
再会は偶然で、上京した先の大学でのことだ。
絢子は人懐こい雰囲気をそのままに、見違えるほど綺麗に成長していた。
「ね、きみアッちゃんでしょ?」
キャンパスで会うなり懐かしいあだ名で呼ばれ、ひどく驚いたのを覚えている。
久しぶりなのもあるが、あれだけ人気者だった絢子が、地味な俺を覚えている事が意外だった。
活動的なわりに雪のように白い肌、きりっとした瞳、艶の流れる長い黒髪。
かつて魅力的に思えたパーツは、今も変わらない輝きを放っている。
子供らしかった身体つきも、女子大生らしく、南国の果実を思わせる乳房やすらっとした脚に成長した。
隣の席に彼女が座った時には、ついその胸や太腿に視線を吸い寄せられたものだ。
また語学にも堪能になっており、特に中国語は現地留学を経て、ネイティブの教授と同等に議論するほどになっていた。
美人なうえ愛嬌がある絢子は、当然かなりの男に言い寄られていたようだ。
なぜ俺とくっついてくれたのかが不思議なくらいに。
小学校時代から一緒に遊んでいた同郷の友人だからか、あるいは周りの男ほどガツガツしていなかったからか。
ともかく絢子は、気がつけば俺と一緒にいることが多くなり、そして長い交際の末、2年前に指輪を交わした。
今ではかつてのやんちゃ振りが嘘のように、淑やかな“良い奥さん”をしている。
その絢子を、こんな形で不幸に巻き込んでしまったことが口惜しい。
数ヶ月、いや或いはこれから数年、痴漢で服役している夫を待たなければならないというのか。
それぐらいなら、いっそ別れよう。そしてまだまだ先のある絢子を自由にしよう。
俺は留置場でそう考え始めていた。
しかしそれが2か月ほど続いたある日、突如俺は釈放を赦された。
『保釈金が支払われた』のだという。ありえない。そんなすぐに用意できるはずがない。
そう思いながら留置場を出た俺を待っていたのは、愛する絢子の姿ではなく、見覚えのない男だった。
「斉藤の代理で来た、金岡だ。まずは出所、おめでとう」
男はそう切り出す。口調もぞんざいだがそれ以上に、細目から覗く挑むような視線は、
こちらを侮っているか敵意があるかのどちらかだろうと思えた。
「その出所が理解できないんだが、350万って金はどこから出たんだ?」
俺が同じく敵意を込めて尋ねると、金岡が目を細める。
俺はその仕草に、妙な悪寒を覚えた。
「あんたには美しい奥さんがいるだろう?彼女が健気にも工面したんだ。
詳しく知りたいなら、場所を変えよう」
金岡はそう告げ、正面に止まっている車を示した。
およそ俺には馴染みのないような高級車だ、まるでヤクザが乗るような。
嫌な予感が強まる。まさか、……まさか。
薄っすらと見える悪夢に怯えながらも、真実に近づくためには乗るしかなかった。
※
車は都市部を抜け、やや寂しさの漂うビルの前で止まった。
見た目はごく普通のオフィスだ。しかし今の時代、ヤクザの事務所が解りやすい筈もない。
鉄の扉を開けると、やや胡散臭い革張りのソファが視界に飛び込んでくる。
壁の絵や壷、そしてカーペットも、無駄に華美でビジネスには相応しくない。
「遠慮なく掛けてくれ」
金岡が椅子に腰掛けながら、テレビの正面にあたるソファを指し示す。
やけによく沈む椅子はすわり心地が悪かった。
見渡しても部屋内に俺達以外の人間は見当たらないが、閉ざされたドアの向こうは解らない。
言い知れぬ不安が再度訪れた。
しかし、いくら不安でも、明らかにしておきたい事がある。
「……絢子は……妻は、身体を売ったのか」
俺はビールを注いでくる金岡に問うた。
350万などという大金が僅か2ヶ月程度で用意されたこと、
絢子が出所の出迎えに来ないこと、明らかに堅気のものとは思えない車……。
これらを鑑みれば、絢子が俺のために身を売ったとしか考えられない。
そして金岡は、首を縦に振ってそれをあっさりと肯定した。
「彼女も方々駆け回ってはいたそうだが、今の日本で何百万という金は中々借りられない。
だから彼女は、焦るあまり闇金業者に相談を持ちかけたようだ。
あんなに美人で清楚そうな女が、絶対にしてはならない真似だな。
そして結局、すぐに大金が要るって弱みに付け込まれ、裏ビデオの世界に引っ張られた」
金岡はそこで言葉を切り、ガラステーブルに積まれたDVDの中から一つを拾い上げる。
そして私に静かな視線を向けた。
その意図を察した俺は、生唾を呑み、表情を強張らせて頷く。
冷や汗が背筋を流れた。
※
映像は薄暗い室内を映し出した。
コンクリートの壁と、シーツの掛かった白いベッド、そしてその奥に中華風の屏風が見える。
生活観の欠如したその空間は、裏ビデオの撮影現場に違いなかった。
室内には、ベッドやパイプ椅子に腰掛けた数人の男が映っている。
何かを待つように煙草をふかしている所からして、AV男優か。
いずれも浅黒く日焼けし、筋肉質な身体つきをしている。
刺青を彫り込んだ男もおり、さながら武闘派の暴力団員といった様子だ。
彼らは何かを語り合っているが、その意味が解らない。
よく見ればアジア系の顔立ちではあるものの、どこか日本人とは違って見える。
「何を話しているのか、解るか?」
金岡が映像内の会話を差して言った。俺は正直に首を振る。
すると金岡は可笑しそうに笑った。
「なら、存分に想像力を働かせてみることだな。
日本人が海の向こうの連中に輪姦されるビデオは、国内のみならず大陸側でもウケがいいんだ」
金岡の言葉は冷ややかだった。俺はその一言に、突き刺されるような痛みを覚える。
その現実を受け入れたくない、と頭が訴える。
しかしそれに追い討ちをかけるかの如く、映像内に1人の女性が現れた。
絢子だ。
面会に訪れた時と同じく、首筋までに切り揃えた艶やかな髪の絢子がいる。
まさか、髪を切ったのはこの撮影の為だったのか。
心境の変化などではなく、いやらしい撮影の為に強制されて。
「……お前らが髪を切らせたのか?」
俺が問うと、金岡はまたしてもあっさりと肯定する。
「ああ。長ったらしい髪というのは撮影で邪魔だからな。
行為中に肝心な部分を隠しかねんし、精液ですぐに汚れて不衛生だ。
短く切り揃えた方が幼さが出て、ビデオの売り上げが上がるとアドバイスしたら、
すぐに切ってきてくれたよ」
そう口元を吊り上げる金岡は憎らしい。
だがそれよりも、俺には映像内の絢子が気がかりだった。
絢子はバスローブのようなものを巻いた姿だった。
それは湯上りというよりも、いかにもアダルトビデオの撮影前という印象を受ける。
男の1人が絢子に声を掛けると、絢子はかすかに躊躇いを見せながらバスローブを肌蹴た。
中から絢子の裸体が表れる。俺は思わず息を呑んだ。
拘留中を別にしても、ここ半年近く、忙しさのあまり絢子と交わる機会がなかった。
またその際も、付き合いが長くなって恥ずかしくなってきた事もあり、彼女の裸体を凝視する事はなかった。
その裸体が、今映像の中で晒されている。
崩れていない。大学時代、彼女とビーチに出かけて感動した時のスタイルを維持している。
すっきりした顔の輪郭から降りる首筋の綺麗さ、浮き出た鎖骨、胸板から零れ出るような乳房、
すっと縦に一本線の入った腹筋に弓なりの腰つき、肉感的な腿から始まる逆三角の脚線。
女神の絵として裸婦画に残したいほどだ。
しかしその芸術的な裸体は、夫の俺ではなく、映像内の男に向けて晒されている。
絢子は素肌を晒すままにしながらも、秘部に当たる部分に前貼りをつけていた。
俺がそこを凝視していると、金岡が補足する。
「彼女はAVに出る事こそ承諾したが、秘部を使う事だけは頑として拒み続けた。
あの紙製の前貼りは、彼女の貞操そのものだ。お前だけに捧げる……な。
まったく羨ましい限りだよ」
その言葉に、俺は胸を撫で下ろす。そうか、そこは譲らなかったのか。
秘部を使わないとなれば、せいぜい男のモノをしゃぶるぐらいの内容になるだろう。
俺はそう考えた。しかし続く金岡の言葉は、そんな俺の予想を覆すものだった。
「まぁこちらとしては前が使えなくても、それはそれで構わないがな。
清楚な若妻のアナルを徹底的に調教して、犯しぬいてやるのも悪くない」
金岡の言葉に、俺は凍りつく。よく意味が解らないが、ろくでもない事は伝わる。
「……アナル?」
「ああ、後ろについてるクソの孔だ。そこをほぐして、犯すんだよ。
その様子じゃあ、アナルセックスなんてした事もないだろう?
いかにも平凡な営みしかしそうにないタイプだ」
金岡はそう告げ、さも可笑しそうに笑う。
事実、俺は相当なショックを受けた。
尻の穴でのプレイがある事は知っていたが、汚らわしくて毛嫌いしていた。
人が普段排泄する穴でセックスするなどどうかしている。
絢子も、実際に話をした事はなかったが、そんな事に興味を示すタイプとは思えない。
だがそのおぞましい行為が、絢子に現実として圧し掛かっているのだ。
俺は吐き気を覚えた。
絢子は裸のまま、男達の手でベッドの上に運び込まれた。
そして男の1人が耳元で何か命じると、一瞬躊躇いの表情を見せる。
絢子には男の言葉が理解できているらしい。
絢子はしばし抗うような目をしていたが、再度強めに囁かれると、観念したように姿勢を変えた。
ベッドに腰掛けたまま大きく脚を開き、膝裏に手を掛けて引く形に。
つまりは、秘部と尻穴を前方に晒す格好だ。
男達から感嘆の声が上がった。言葉は解らないが、そうした直感的な意思は伝わってくる。
だがそのために、男達をただの木偶と思うことも難しかった。
絢子が脚をひきつけた事で、その秘部周辺がよく見えるようになる。
秘裂を覆うように貼られた前貼りが、かすかに割れ目に食い込んでいるのが見えた。
それは局所的だからこそ、水着の食い込みよりもさらにいやらしい。
その前貼りの上には手入れのされた繁みが縦長に広がっている。
そしてそれらのずっと下に、今回の主目的とされている肛門が覗いていた。
脚の付け根が造る骨ばったラインと、恥丘の膨らみに囲まれ、絢子の肛門は慎ましく窄まっている。
当然のごとく未使用なそこは、毛の一本ほどしか通りそうにない。
その窄まり具合といい、桜色の綺麗さといい、そこが毎日排泄している穴であるのか疑わしいほどだ。
映像内の男達もその孔に魅せられたのだろう。
奴らは絢子の尻や内腿に筋肉質な手を触れ、その柔な肉を揉みはじめた。
そして尻全体を揉むような動作の中、指先で押し込むように肛門を刺激し始める。
「……う……」
絢子が小さな言葉を吐く。拒絶か、動揺か。
男達の揉みしだく動きは次第に遠慮がなくなっていき、尻の形を変えるほどになっていく。
やがてタガが外れたかのように、1人がピンク色の肛門にむしゃぶりついた。
「やぁっ……!!」
絢子の声は、今度ははっきりと拒絶を示すものだった。
しかし男は構わず、絢子の尻穴を舐めまわし、唾液を塗りこめ、舌を腸内にねじ入れる。
「う、ああう、やぁっ!……あ!」
絢子は何度も嫌がりの声を漏らした。
そうして何度も何度も舐りまわされた末、やがて絢子のピンクの肛門はかすかに口を開いた状態になる。
当然、その孔の周りは男の唾液で濡れ光っていた。
その状態になった絢子の前に、画面外から檜の桶らしきものが運ばれてくる。
そして1人がその桶の中に、瓶入りの薬液を注ぎこんだ。
さらに別の薬液も注がれ、手で掻き混ぜられる。
2種類の薬液は桶の中で科学反応を起こしたのか、溶かした片栗粉のようなとろみをもちはじめた。
そこへ来て、男達は絢子の身体をひっくり返しにかかる。
体全体を逆さにし、首を支点にして倒立したまま脚を下ろす……ちょうど肛門が天を向くようにだ。
そしてその肛門へ漏斗をねじ込み、桶を傾けてその中身を少しずつ注ぎ込みはじめた。
浣腸、というやつだ。
普段出すだけの穴に液体が入り込み感覚。何ともおぞましい事だろう。
「い、いやぁあー!!なに、入ってくるっ、ああ、おしりにっ入ってくる……!!!
やめてぇ、熱いっ!熱いおなか焼けちゃううっーー!!!!」
絢子の声が画面内に響いた。
髪の束がシーツの上でうねり、大きく開けた口が映りこむ。
それでも、狂乱する絢子を前に、男達は薄笑いを浮かべているだけなのだ。
まるで、留置場での俺を見ていた刑事や女子高生のように。
怒りのあまり、握りこんだ拳が震えた。
悪夢の注入が終わった後、絢子は座る姿勢に戻される。
だが絢子は腹部をさすったまま、何とも不安そうな表情を見せていた。
「 」
絢子は男達に向けて、短く何かを告げた。意味は解らない。
だが男達はそれを理解した上で首を振り、絢子の顔を引き攣らせた。
と、絢子の後ろに立つ男が、答える形で何かを告げる。
それを耳にした瞬間、絢子の目が見開かれた。
「な……何を言ったんだ!?」
俺は金岡に問うが、奴はただほくそ笑む。
「見ていればわかる」
そう言った金岡の視線の先で、男の1人がベッドに仁王立ちになっていた。
屹立した逸物を絢子の鼻先に突きつける形で。
絢子は思いつめたような表情でそれを凝視している。
なるほど……俺にも解ってしまった。
ペニスを舐めろ。絢子はそう命じられたのだ。
男達の物を舐めて射精に導く事が出来れば、トイレに行かせてやる。
そんな所だろう。
そしてそれを命じられた絢子は、相当な逡巡の後、諦めたように目を閉じた。
その腹部から、くるる、と小さな音が聞こえる。
そして絢子の小さな唇が、男の浅黒い逸物の先に触れた。
絢子は男の逸物を舐め始め、すぐに噎せたように鼻頭を顰める。
相当な臭気がするのだろうか。
だが男が絢子の髪に手を置いて促すと、渋々と手を添えて奉仕を始めた。
俺にとっては絶望的な絵面だ。
愛する嫁が、ベッドに仁王立ちになった見知らぬ男にかしずき、その逸物を舐めしゃぶっている。
男の逸物は、ビデオに出演するだけあってそれは立派なものだった。
長さで言えば、絢子の唇から首裏までの顔の横幅と大差ないほどで、
太さは大振りのステーキを頬張る口の形をしてちょうどいいほど。
口惜しいが、俺の物とは比較するまでもない。
当然それほどの大きさの物をしゃぶるのは、絢子とて大変なようだった。
何しろ普段は俺のサイズに合わせているのだ、勝手が全く違うだろう。
絢子は極太の亀頭部分のみを苦しそうに口に含み、溢れる唾液を塗していく。
同時に幹を手で擦るが、シェーカーを振るように手首を動かしてようやく扱ける規格外さに陰鬱な表情を見せた。
するとそれが気に触ったのだろうか。
物をしゃぶらせていた男が、絢子の後頭部を鷲掴みにし、逸物の方へ押し込むようにしはじめる。
「う゛お゛おぉえ゛っ!!?」
当然、絢子はえづき声を上げる。今までの生活で聞いた事がない類の汚い声だ。
「ふう゛ううう!!うむ゛ぉうう゛う゛っ!!!」
絢子は苦しみのあまり男の太腿に手を置き、押しのけるようにする。
けれども男の押さえつけの方がよほど強力らしく、その手は空しく男の太腿を横滑りするだけだった。
絢子は困りきったように上目遣いで男を見上げるが、男は短い言葉を繰り返すだけ。
恐らく「深く、深く」といったところだろう。
折れるつもりのない男の態度に、絢子は観念したように目を瞑った。
そして手を軽く男の脚に添える程度にし、男の動かすままに従う。
男は完全に気をよくし、絢子の頭を掴んでその喉を使い始めた。
ごえっ、げおっ、ごおえっ、げぉおぼっ……
絢子の低いえづき声が響く。
その異常性が物語る通り、男の長大な物はすでに8割ほどが絢子の口腔に収まっていた。
絢子の小さな口からは次々と粘り気のある唾液が掻きだされる。
それは時に、絢子の唇が前後する赤黒い肉茎から飛び散り、
時に絢子の白い喉を伝い、鎖骨を流れ、乳房の先端から滴ってシーツを汚す。
絢子の顔には汗もひどく流れていた。
「ひゅー、ひでえな。あんな凶悪なデカマラでイラマチオかますとはよ。
奥さんもありゃ地獄の苦しみじゃないか?
喉にゴリゴリ入ってンのがこっからでも見えるし、えづき声もヤバイだろ。
せっかく可愛い顔してんのに涎ダラッダラで、エロいよなぁ。
吐いてねぇ辺りディープのセンスはあるが、あの様子じゃ時間の問題だな」
横で金岡が興奮気味にまくし立てるが、俺にはあまり理解できなかった。
ただひどい状況である事だけは、嫌というほど解ってしまう。
地獄のようなディープスロートを受ける一方で、絢子にはまた別の苦しみも襲い掛かっていた。
浣腸の効果だ。
すでに絢子の腹部からは、ぐるる、ごぉるるる……と配水管が詰まったような音が発されている。
おまけに眼前の男にすがりつくような絢子の後ろには、別の1人がいた。
奴は上から尻肉を鷲掴みにするような形で、何度も何度も絢子の菊輪をほじくり返していた。
浣腸の効果で、すでに決壊が間近な肛門をだ。
当然、そんな事をされて無事に済むわけもない。
中指・人差し指の2本でなされる弄くりは、始めのうちこそぬちぬちと水っぽい音を立てるだけだった。
だが時が経つと、その2本指が抜き差しされる度、ぶぴっ、ぶびぴっと放屁のような音が漏れるようになる。
そうなってくると絢子の白い臀部も前後左右と振りたくられて拒否を示すようになり、
そしてその様を見下ろしながら、男達は嗤う。
やがて、とうとう口でさせている男が絶頂に至った。
絢子の頭を押さえつけて腰を震わせ、喘ぎながらどくどくと大量の精を注ぎ込む。
それは絢子の小さな口には収まらなかったらしく、唇の端から伝い落ちた。
そうしてようやく奉仕から解放された絢子は、歯の間から精子を吐き溢しながら何かを叫ぶ。
前の男に、振り返って後方の男達に、必死の形相で。
男達と同じような言葉で叫んでいるところからして、通じてはいるはずだ。
しかしその哀願にも、なぜか男達は笑うばかりだった。
「いやー必死だねぇ。あの清楚そうな奥さんがよ、
『ウンチさせてください、何でもいいから今すぐウンチさせてください!!』
っつって懇願してるよ。はは、傑作だ」
金岡も俺の肩に手を置いて笑う。
映像内の男達も、散々絢子を焦らして悲壮な哀願をさせた後、ようやく排泄の許可を出す。
絢子はベッドに置かれた桶へ、中腰で跨る格好を取らされた。
そして尻肉を自ら目一杯広げたまま、恥辱の排便をさせられる。
自ら尻肉を開いた事で、桜色の肛門が盛り上がり、開く所、そこから出る汚物が余さず映し出される。
出てくるのはやはり、片栗粉を溶いたようなとろみのある物体だった。
ただし、注入されたのが透明だったのに対し、出てくるものは茶色く濁っている。
それは独特の粘度を持ちながら、桶の中にびとっ、びとっと落ちていく。
そうして肛門から茶色い物が出る瞬間は、完全なノーモザイク、生々しい映像だ。
男達はその様に、狂ったように歓喜していた。
後ろを向いた絢子の、切ないむせび泣きをかき消すかのように。
全ての排泄が終わった後、男達は汚物の入った桶を持ち上げる。
そして紙を取り出して桶の側面に貼り付けた。
『日本女的大便』
紙にはそう書かれている。
男達はその文字を映し、また桶を傾けてその中身をカメラに撮らせ、
さらに突っ伏した絢子を接写して騒ぐ。
映された絢子の肛門は、指2本が入るほどに開き、自らの汚物でかすかに汚れていた。
それらが様々な角度で嫌というほど撮られた後、映像は絢子の顔を接写する。
涙と汗にまみれ、虚ろな瞳をした、俺の大切な嫁の顔を……。
恥辱の浣腸が終わった後、ようやく画面が暗転してビデオが終わる。
「…………っはぁっ……!!」
俺はソファにもたれて大きく息を吐きだした。窒息しそうだった。
金岡がデッキからDVDを取り出している。
しかしそのもう片方の手を見て、俺は目を疑った。
そこには、今まさに一本目と入れ替えでデッキに差される、別のビデオがあったからだ。
ラベルには『肛門調教』とある。
「……おい、何だそれは。……まさか……!!」
思わず声を震わせる俺に、金岡はもう何度目かの薄笑いを浮かべる。
「記録はまだまだあるぜ。もう腹いっぱいだってんなら、止めとくがな。
ただ、可愛い嫁さんが必死に頑張った記録なんだ。夫として、せめて観てやるべきじゃねぇか?」
金岡の言葉に、俺は奥歯を噛む。
ハラワタが煮えくり返りそうだ。だが絢子に降りかかった悲劇を知っておきたいのも事実。
「覚悟を決めな、旦那」
金岡は満足げに笑いながら、再生のボタンを押した。
※
背景に変わり映えがない所からして、これも1枚目と同じ部屋で撮影されたものらしい。
ベッドの上に裸の絢子が正座している。
「 」
男の1人が何かを告げると、絢子は一瞬躊躇いの表情を見せた後、おずおずと正座を崩した。
そしてMの字を描くように脚を開き、自ら膝を引きつけて秘部を晒す。
何と『はしたない』格好だろう。
俺の知る絢子は、そのような恥知らずな真似を進んでする女じゃない。
むしろ、俺が風呂上りに下着一つでいるのをたしなめる、母親のように分別ある女だ。
だからこそ俺は彼女に専業主婦になり、立派な子供を育てて欲しかった。
その絢子が、あんな格好を。
一方、映像内の男達は大喜びだった。
何事かを囁きあいながら、下卑た瞳で絢子の肛門を凝視する。
その視線に追従するようにカメラが寄り、むちりとした絢子の内腿を大きく映し出した。
白く柔らかそうな腿の間には、いやらしく食い込んだ前貼りと、ピンク色の蕾が見える。
きゅっと窄まった蕾が健気だ。
カメラはその肛門を淡々と映した後、映像を上に上げていく。
すっきりとしたお腹、斜め下へ豊かに張った乳房、結ばれた唇、そして不安げな下向きの瞳……。
それは、スタイルのいい美人妻が尻穴まで撮影されている、というえげつない現実を今一度認識させる。
「……ホント、別嬪だよな」
金岡の賛辞が耳に不快だった。
映像内で責めが始まる。
カメラが絢子の白い脚からさらに下方、男の節ばった指を映し出す。
指はローションらしき瓶から親指で少量を掬い取り、絢子の菊輪へと迫った。
親指が菊輪へローションを塗りつけると、絢子の内腿がびくりと反応する。
桜色の肛門から想起される通りの初々しい反応だ。
ぬるり、ぬるりとさらに塗りこめられると、あ、と小さな声も聴こえた。
絢子の声だ。
休日の前夜に抱き寄せ、うなじにキスをした時とまったく同じ声。
俺の首裏の血管を、温度の低い血が針のように流れる。
ひとしきりローションが塗り込められた後、ついに男の人差し指が、絢子の肛門を垂直に捉える。
ぐうっ、と音がするように入り込む人差し指。
「あ……ああ……」
映像に顔の見えない、絢子の声がした。
指はさらに奥へと入り込み、中で鉤状に曲げられて、菊輪を盛り上げるように穿り返す。
ローションでテカりを持った菊輪がぷっくりと膨れるのは圧巻だった。
「あっ……あ!!」
絢子の声もトーンが高く、感じるものが大きかったのだと解る。
その声を余韻に、指はいったん引き抜かれた。
そして男はあろう事か、その抜き出した指を絢子の前で嗅いでみせる。
ニヤける男を見て周りの連中は笑い、絢子自身はあまりの恥辱に凍りついていた。
俺もおぞましさに何度も眼を疑った。
俺達夫婦にとっては、到底理解のできない行動だ。
「へ、大した変態野郎だぜ……だがまぁ、気持ちは解る。なんせあの美人のだ。
顔もカラダも品があるし、何よりあの使命感に燃えた目がタマらねぇ。
あんなに甚振りたくなる若妻はそうそういねぇな」
金岡の下卑た台詞も終わらないうちに、映像では再び男の人指し指が第二関節まで入り込んでいた。
桜色の淡い輪の中に、浅黒い指が出入りする。
指に纏いついたローションのダマが、尻穴から出てきた時には平らにならされている。
尻穴の下に、余分なローションが川のように小分かれして伝っていく。
無修正のため、それら全てが余すところなく見える。
夫である俺に限らず、隣の金岡にも、このビデオを観る全ての人間にも。
そこから、しばし人差し指での刺激が続いた。
そして人差し指がスムーズに出入りするようになる頃、中指も加えた2本指が捻じ込まれる。
「あくっ……!!」
絢子の声がするが、気に留める者はいない。
2本の指が、ほのかに赤く盛り上がり始めた菊輪に出し入れされる。
一本目のビデオと比べれば随分と丁寧にやっているようだ。
ゆっくりと指を揃えて差し込み、時には菊輪をほぐすように柔らかく押し広げ、
時には腸内を攪拌するように力強く捏ね回す。
その指責めはよほど巧みなのか、肛門内で指が蠢くたび、開いた絢子の両脚がピクンと反応していた。
同時にベッドが軋む。
「んあっ、ああっ……!!あ……あうっ……ん!」
絢子の口からもやがて、堪えようもないという様子で声が漏れはじめた。
カメラが肛門の接写をやめ、再び絢子の上半身を映した時、その理由が明らかになる。
「ふあっ……!!」
肛虐の極感の仰け反る絢子の背後には、いつの間にか1人の筋肉質な男優が回りこんでいた。
男優は絢子を支えながら、その豊かな乳房を揉みしだいている。
手馴れた様子で胸をもみ上げ、乳首を指で挟み潰し。
その胸への責めもまた、絢子に声を上げさせている一因に違いない。
男達は前後から色責めを掛けながら、絢子に何かを囁きかけていた。
絢子も喘ぎながらもそれに答えている。
「あれは何て言ってるんだ、教えてくれ!」
俺は不安に駆られて金岡に尋ねた。
金岡は優越感の浮いた笑みを見せる。
「……あれか?なに、連中があの奥さんの性生活を聞き出してるだけさ。
何でも、もう半年ばかしご無沙汰だったんだって?」
金岡の言葉に、俺はショックを受ける。
俺達夫婦がどれだけセックスしていないかなど、俺と絢子以外に解る人間はいない。
となれば、本当に男達がそれを聞き出しているのだ。
何も嘘だと思っていた訳でもないが、その『真実』は俺をひどく憔悴させた。
「他にも色々言ってるぜ。オナニーは今じゃ週2回、風呂場でやってんだってよ。
20台半ばの若い身体を持て余してんだから当然だな。
奥さん、相当男に飢えてるんじゃねえか?
後ろから胸責めてる奴が、もう乳首コリコリにしこり立っちまったってよ」
金岡の言葉通り、背後の男が揉み潰す乳首は、最初と比べるまでもなく縦長に勃起していた。
乳輪も収縮し、吸い上げられたように盛り上がっていて、思わず吸い付きたいほどだ。
紛れもない性反応。
とうとう見えてしまった妻の性的な変化に、俺は生唾を飲み込んだ。
「ひゃっ、やァ……あっ、ああ……!!」
絢子の喘ぎ声一つ一つが、俺の肺を締め付けるようだ。
「嫁さん、イイ声が出てンな。だがあれでも随分と“堪えてる”はずだぜ?
女の快感ってのは、神経を介して簡単に混ざり合っちまうもんらしい。
あの奥さんは今、見知らぬ男に裸を晒す興奮と、ケツ穴をほじくられる違和感、
プロに乳を揉みしだかれる快感で頭が一杯になってるはずだ。
ケツに指が入ってくるのと同時に乳首からの快感が頭を突き刺してよ、混乱しちまう。
一刻また一刻と、ケツが気持ちイイって刷り込まれてるワケだ。
それがどれほどか解るか?
今まで素人ビデオ山ほど撮ってきて、普段声の小さい奥さんが大声で喘いでるのも見た。
それをお前の嫁さんは耐えてる、今の倍は声出しててもおかしくないのによ。
清楚な良い女だぜ、まったく」
金岡は目を細めながら告げる。
その視線の先で、絢子は飽くことなく若い尻穴を開発され続けていた。
映像に変化を持たせる為だろうか。
絢子の肛虐は延々と続いたが、その責め方は少しずつ変わっていった。
今、絢子はベッドに寝かされ、拘束帯が巻かれた両脚を片側に投げ出す格好だ。
股はぴっちりと閉じたまま、剥き卵のような尻だけが無防備に晒されている。
その尻穴へは、変わらず責めが加えられていた。
今の責め具は、直径2センチほどの黒球がいくつも連なったビーズだ。
それにローションをたっぷりと塗して一球ずつ押んでいく。
「く、苦しい……!もう、××××……!!」
絢子が球を押し込む男を上目遣いに見上げながら訴える。
後半は日本語ではないので解らなかったが、恐らく『もう入らない』と言っているのだろう。
しかし男は構うことなく、無理矢理に球を指の腹で押し込んでいく。
その苦しさからか、絢子の膝に巻かれた拘束帯がギチギチと音を立てていた。
幾度かのやり取りの末、ついに黒球は全てが絢子の尻穴に収まる。
「はっ、は、はッ……!!」
絢子は目を細め、苦しさに息を荒げていた。
汗で湯上りのように貼り付く髪が異様に色っぽい。
絢子の頭の下には枕が積まれ、尻を取りながらも自然に顔が入るようにされているが、
なるほどAVとしては効果的な演出だと認めざるを得ない。
しばし絢子の顔が映された後、カメラは再び尻穴を映し始める。
そこでは男の指が、ビーズの末端についた輪っかに引っ掛けられていた。
そして撮影が良好と見るや、勢いよく引かれる。
輪が引かれ、同様に絢子の尻穴へ埋め込まれた黒球が勢いよく飛び出してくる。
「うああああっ!?」
絢子の驚きの声が響いた。それはある意味当然と思える結果だった。
先ほどまであれほど苦しんで入れたものが、勢いよく放たれたのだから。
それはどれほどの感覚だろう。
「ひゅう、スカッとするイイ鳴き声だ。脚をピタッと閉じてっから、余計にケツの感じ方が凄いんだろうぜ」
そう笑うのは金岡だ。
球がすべて抜き出された後、絢子の尻穴が接写される。
そこは球の大きさと同じだけ口を開き、ローションを薄く吐き溢していた。
明らかに最初より開発されたものだ。開き具合は勿論、菊輪の盛り上がりも解るほどになっている。
その尻穴へ、再び黒球が押し付けられた。
先ほどより明らかに弱い抵抗で、球が赤い輪に呑み込まれていく。絢子の太腿がびくりと震えた。
その反応を愉しむように、カメラは絢子の顔を映す。
目を細めて息を荒げる絢子。胸の谷間から覗くその口の端には、うっすらと涎の線が見える。
それが異様に、異様に、いやらしい。
俺は1人の男として、画面の向こうの遠い妻に、そう感じてしまっていた。
『やめてっ、そんな、無理、大きすぎて無理いいぃっ!!!』
映像の中で絢子の叫びが響き渡る。
絢子はベッドに手をつき、尻を高く掲げる格好で肛虐を受けていた。
ちょうど力士が立会いの時にするような姿勢だ。
足元には様々な淫具が転がっている。
黒球のビーズ、アナル用のバイブレーター、ペニスを模したディルドウ、
果てはゆで卵や玉こんにゃくまでもが、ローションに塗れてボウルの中で混ざり合っている。
すべて、絢子の尻穴に押し込まれ、排出されたものだ。
それらの仕上げとして、絢子の肛門には今、極太の責め具が押し込まれていた。
力士の立ち合いのような格好で悲鳴を上げる絢子。
しかし男優達に容赦はなく、尻肉を掴んで無理矢理に太い責め具を押し込んでいく。
絢子の膝はガクガクと震えていた。その震えが、絢子を襲うおぞましさを物語っていた。
カメラはそんな絢子の様子を撮りながら、尻穴の様子も的確に捉えている。
俺の逸物よりかなり大きい責め具が、その先端部分を絢子の肛門へ埋没させていた。
絢子の肛門は皺さえなくなるほどぴっちりと伸び切って、その剛直を迎え入れている。
明らかに限界といった大きさだ。
それが男数人の力で、無理矢理に押し込まれている。骨盤を割ろうかというほどに。
絢子は叫んだ。しかしその一方で、巨大な責め具は数ミリずつ、着実に埋め込まれていく。
絢子の腸内に。
絢子の吐き溢した涎がシーツに染みを作る頃、ようやく責め具は最奥まで入り込んだ。
男達は達成したように笑い、今度は責め具を引き抜きにかかる。
「うああぁう、ッぐ……!!!」
絢子の苦悶の声が再開した。
今度はすべて抜き去られる事はなく、途中で再び突き込まれはじめる。
突いて、抜いて、突いて、抜いて。
目を見張るような大きさの責め具が絢子の尻穴を出入りしている。
それは何とも信じがたい光景だった。しかし、それは事実だ。
絢子が苦しみの声をあげ、脚を震わせている以上、現実でないわけがない。
責め具の抜き差しは長く続いた。しかし、俺にとってはそれでもまだ良かった。
所詮は玩具を使った嫌がらせだ。許しがたいが、まだ不幸な事故だと思って済ませられる。
ただ……当然、それでは終わらなかった。
たっぷりと時間をかけて尻穴嬲りが映されたビデオは、ここで途切れる。
でも、次いで取り出された3本目のビデオには、はっきりと書いてあったんだ。
『 記録3. 肛門性交~ 』
その、絶望的な文字が。
※
3本目のビデオでは、絢子の汗がタオルで拭かれたように引いていた。
皺だらけのベッドシーツも取り替えられ、男優達は上半身裸にジーンズという格好になっている。
小休止が入ったのだろう。
その改まった空気の中で、絢子は1人の男優と共にベッドに上がる。
男優は絢子の髪を撫でつけ、まるで恋人のように桜色の唇を奪った。
「んっ!!」
絢子が目を見開いた。その間にも、男の下が絢子の唇を割り、中へ侵入していく。
俺はひどい息苦しさを感じた。
男優はテレビで見る韓流アイドルさながらの逞しい美形だが、俺にとっては見知らぬ外国人に過ぎない。
妻とのディープキスなど許容できる筈がなかった。
「んん、んっ……!!」
絢子が視線を横に逸らせて、拒絶の意思を示している、それがせめてもの救いだ。
映画のワンシーンのような口づけが終わったあと、男は絢子を寝かせ、指に唾をつけて絢子の肛門に宛がう。
2本指だが、散々開発された絢子の肛門はそれを易々と受け入れた。
男はさらにもう片手の2本指も加え、4本で思い切り絢子の肛門を押し開く。
「あ、ああ!!」
絢子が声を上げると同時に、赤い輪となった肛門は驚くほど大きく広がってしまう。
洞穴のような腸内はヒクヒクと物欲しげに蠢き、中からはローションとは違う液体が溢れ出てきていた。
「ふあ、あ……」
肛門を完全に拡げられ、絢子が放心したような声を発する。俺はその声色に耳を疑った。
「キモチ、よさそうだな」
金岡の言葉に、ドキリとする。
「あれだけ念入りに肛門を開発されたんだ。もうああやって指で弄くられるだけで感じるんだろう。
おまけにあの逞しくて若いイケメン共に、これからクソの穴を輪姦されるんだぜ?
そりゃどんな若妻だって興奮するわな」
「絢子はそんな女じゃない!!」
俺は思わず怒鳴っていた。
だが金岡は、別段気にする風もなくビデオに視線を戻す。
その無言の行動に、俺も同じく従うしかなかった。
映像の中では、男優がジーンズとトランクスを脱ぎ捨て、逸物を曝け出していた。
やはりでかい。AVに出演するような奴なのだから特別なのだろうが、長さが俺とは比べるべくもない。
男はいきり立った逸物を絢子の鼻先に近づけ、舐めさせはじめた。
「ん……んむぅっ……ちゅ……」
小さな唇へ長い逸物が出入りし、銀色に艶めく唾液を纏っていく。
竿全体が濡れ光る頃になると、ようやく男優は絢子の唇から逸物を抜き去った。
そして絢子の股を開き、すらりとした白い脚の間、前貼りの下にある排泄の穴へと逸物を宛がう。
俺は生唾を飲み込んだ。
「…………アッちゃん…………」
ふと、映像の中で、よく知った絢子の声がする。
絢子は正常位で今まさに貫かれようとしながら、男優より遥か遠くに視線を投げていた。
「…………アッちゃん、ごめん なさい………………」
その言葉が終わる時、ついに逸物が絢子の肛門へ入り込む。
絢子の潤んだ瞳が細まり、祈りを捧ぐようだった口元が引き攣る。
その表情を観るとよく理解できた。絢子が、2度目のバージンを奪われたのだと。
絢子が正常位で尻穴を犯される様は、真上から見下ろす形で撮影されていた。
犯す方も、撮る方も流石にプロだ。
男優は絢子の脚をカエルのように開かせながら、上体を引く格好で犯している。
そのお陰で、真上からのカメラに結合部分が隠れる事なく映されていた。
前貼りのお陰で、剛直が秘裂ではなく『肛門に』入り込んでいる事が瞬時に解る。
カメラがそこをアップにすれば、剛直が菊輪を押し込み、捲りかえす動きが無修正で映されていた。
その映像は淡々としながらも強烈で、責めを受ける絢子がどんな感覚に襲われているのかと想像せざるを得ない。
カメラの撮り方は本当に巧みなもので、結合部のアップを取りながらカメラを引き、すらりとした白い両脚を画面端に入れる。
まるで『こんないい脚の持ち主が、汚い排泄の穴を犯されているのだ』と強調するかのように。
そのさ中、唐突に絢子の表情を抜いたりもする。
絢子の鼻と唇の近さから、口惜しさがありありと読み取れた。瞳は親の敵をみるようにレンズを睨みつけてもいる。
気高い美貌をしばし映した後、カメラまた身体を撮りはじめる。
抜き差しに合わせて揺れる乳房、引き攣る腹筋、太腿、そして喘ぐ肛門。
それは表情に反して何ともだらしなく、そして本能を煽り立てるような色があった。
極上のAVだといっていいだろう。女優が嫁でさえなければ。
それから絢子は数人がかりで、様々に尻穴を犯された。
強姦シーンが欲しいということで、後ろ手に縛られ、膝に拘束帯を巻かれた上体で犯されもした。
男が背後から突くたび、絢子が身を預ける机がギシギシと音を立てた。
膝の拘束帯で脚がぴっちりと閉じ、それにより狭まった肛門へひときわ太い剛直が叩き込まれる。
その状況で、絢子は背後へ向けて必死に何かを叫んでいた。そう、必死に。
「なぁ、あれは何て言ってるんだ!?教えてくれ!!」
俺はまた金岡に頼る。金岡は鼻で笑った。
「さぁな。アンタも聞くばっかりじゃなく、考えなよ。大事な嫁さんの言葉だろ、愛してンなら解るだろ」
金岡はそう吐き捨てる。詭弁だ。いくら思っているからといって、知らない言語は理解できない。
「頼む、この通りだ!!」
俺は金岡に頭を下げる。屈辱極まりないが、仕方ない。
金岡はそれでやっと満足げに息を吐いた。
「……ヨガってんのさ。そこがいい、もう堪らないっつってな」
だが、返ってきたのはそのような答えだ。俺は憤りを増した。
「ふざけるな!!」
「ふざけちゃいねえよ。まぁ誇張ではあるが、遠からず、だ」
金岡はいよいよ余裕をもって煙草を咥え、ちらりと俺を見る。
俺は肩を震わせながらライターを取り出して火をつけた。大きく煙を吐き出し、金岡が続ける。
「そこはダメ、あまり突かないでって懇願してンのさ。ケツの穴穿たれてな。
何、そう珍しいことでもねぇ。奴らはアダルトビデオのプロだ、
さっきまでの肛門調教も、見た目には地味だが効く技巧を山のように仕込んでたみたいだぜ。
言葉の解らないあんたは気付かなかったろうが、連中の奥さんへの囁きやら快感への誘導やらは、
男の俺でも背筋がうすら寒くなるぐらいだった。
断言していい。ついこの前日まで未開発だったあの奥さんのアナルは、もうドロドロに開発されきってるのさ」
金岡はそう笑い捨てた。言葉は軽いが、その表情は嘘を言っていない時のものだ。
実際、映像内の絢子は、一瞬、また一瞬と、俺の聞いたことのない類の強制を、見たことのない表情を見せ始めていた。
そして……。
絢子は、『恋人がするように』アナルセックスに応じるよう強制されているらしかった。
背後から抱きしめられ、両腕で男優の頭を包み込みながら何度もキスを交わし、しっかと腰を掴まれたまま直腸を犯される。
カメラはその絢子のブロンズ像のように美しい前身を映しながら、
時に艶かしく踏み変えられる脚を映すこともしていた。
白くすらりと伸びた脚には夥しい汗が流れ、股の下には透明な雫がぽた、ぽたと滴っていた。
汗にしては滴る場所が不自然だ、それは肛門の内部から溢れている。しかし潤滑用のローションにしては透明すぎる。
「あーあ、腸液が溢れてきてやがる。いよいよ本気で感じてンな」
金岡は訳知り顔で笑っていた。腸液、が何なのかは知らない。
だが本能で理解できてしまった。それはきっと、膣の愛液と似たもの。肛門性交で感じた証拠の体液。
それが絢子の肛門から溢れ出ている。
『恋人ごっこ』のアナルセックスは、今やますます深まっていた。
男優がベッドに寝そべり、その上に絢子が仰向けで覆い被さる形だ。
というより、先ほどの後ろから抱く体勢がそのままベッドに移った、と言った方が適切か。
この男優も撮影というものをよく心得ており、絢子に大股を開かせてカメラにはっきりと結合部が映るようにしていた。
絢子はもう相当に感じ入ってしまっているのだろう。そのようにはしたない格好を取らされているにもかかわらず、
大の字に開いた四肢でシーツを掴み、たまらないといった表情で天井へ声を投げていた。
その首にはまるで力がなく、男の肩に預けるままになっている。
まるで恋人が、愛する男に全てを預けるがごとく。
そんなあられもない絢子の様子が、隠す術もなくカメラに撮られてしまう。
何分も、何十分も。
男の上で大の字になった絢子の股座に前貼りが見えていた。紙で出来た前貼りだ。
だがそれが、何ということか、絢子自身の溢れさせた愛液で溶かされている。
もはやそれは、前貼りの役目を果たしていない。ティッシュクズが絡まっているようなものだ。
金岡が笑った。
「へへ、何枚もペーパー重ねて作った前貼りだってのに、もう使い物にならねぇな。
奥さんの貞淑を象徴する前貼りだったのになぁ、もうありゃアウトだぜ」
金岡が言うのとほぼ同時に、絢子を抱く男とは別の男優が絢子の正面に回る。
そしてふやけた前貼りを取り去り、その奥まりへ逸物を押し当てた。
「え、いやぁッ!?××、××××!!!」
絢子が非難めいた声を上げる。前はダメだと言っているのだろう、実際最初に、前はしないと言っていたはずだ。
「おい、約束が違うぞ!!」
俺も同じく非難するが、金岡は涼しい顔だ。
「しない、とは言ってないぜ。前貼りがあるうちはやらなかっただけだ。
だがその前貼りが、奥さん自身の溢れさせる愛液でダメになってまった。解禁さ。
だが仕方ねぇよな、貞操を失っちまったんだから。ケツ穴で濡らさなきゃ、前も使われなかっただろうに」
「ふざけるな!!」
俺は金岡の胸倉を掴み上げる。しかし、金岡は逆に俺を睨みつけた。
「……俺に当たってどうする。犯したのは俺じゃねえぞ」
ヤクザそのものの気迫に、俺は思わず手を離し、力なくその場に崩れ落ちる。
放心状態となった俺の視界で、ビデオは続いていた。
前後から同時に挿入され、叫ぶ絢子。何度も何度も、徹底的に奥までを犯される、妻の姿。
「…………どうすれば、いい…………?」
俺は言葉を搾り出した。
「…………どうすれば、俺達は日常に戻れる?あいつと家に帰れるんだ?」
金岡に縋るような視線を投げかける。
すると金岡は、今までにないほど穏やかな笑みを見せた。
「買い戻すことだな、奥さんを。当初の借金に利子がついて、現状800万。
ついでに言うと、ウチは良心的な『トイチ』だ。
10日も待ってやっと1割ぽっち上乗せする。それをチョチョイと用立ててくれりゃいい」
「……払える訳が、ないだろう」
「何、今すぐじゃなくていいさ。働いて返せばいい。
ああ、ちなみに暴利だからって弁護士に相談したりするんじゃないぞ。
もしこの件で不穏な動きがあれば、二度と奥さんとは逢えなくなる」
金岡はそう言い残し、部屋を後にする。
嵌められた。ヤクザだ。これが、ヤクザなんだ。
10日で利子80万……返せるわけがない。そうと知っていて、絢子を奪うつもりだ。
ビデオの絢子が泣いている。俺に助けを求めているのか。
アイツは今、どこにいるのか。何もかも、解らない。
※
今でも俺は、あの時の借金を払い続けている。
しかし、10日で80万の利子すらも払える見込みはない。
そんな俺を嘲笑うかのように、俺は時おり金岡の事務所に呼び出され、組員共の前で新たな絢子のビデオを見せられる。
『ああっ……!!な、中は、お願い中はもう、やめて……!!!』
今度のビデオでは、絢子はどこかの倉庫らしき場所で、数人の男達に輪姦されていた。
腋の下を抱えられて身動きを封じられたまま、寝そべった男に跨る形だ。
その秘裂には目を疑うほど太い剛直が抜き差しされており、隙間から溢れる白濁が、どれほど執拗に膣内射精されたのかを物語る。
しかし男達に容赦はない。
絢子の細い腰を掴んだまま、逸物を深々と叩き込む。
「安心しな、奥さんの調教は順調に進んでるぜ。この調子でいきゃあ、大陸でも立派に稼げるようになるさ」
金岡が俺の肩を叩いて笑い、組員達も嘲笑を始める。
俺はその状況にもう憤る覇気さえなくし、いつしか、追従の笑いを浮かべるようになっていた……。
終わり