首都圏近くの5階建て、3LDK20畳。
しかも鉄筋造りで防音完備。
この物件にタダで住めるとなれば、それは夢のような話だ。
しかしその方法は、例外的にではあるが存在する。

『AV撮影の為のマンションを管理する』という方法で。

AVの撮影といえばラブホテルで行われるように思われがちだが、
実際にはホテル風の装飾を施した普通のマンションの場合もある。
毎度毎度ホテルを利用するより、マンションを借りたほうが時として安く上がるのだそうだ。
ただAVの撮影ってのは、かなり汚れる。
精液、愛液、ローション、潮、小便……そういったものが室内至るところに撒き散らされる。
そういった撮影後の汚れを清掃し、かつ撮影のない日でも室内を管理しておく。
それが俺に与えられた仕事。
まさしく自宅警備員、というヤツだ。

まぁ知った風に語ってはいるけれども、今のは制作会社の請け売りで、
俺は実際にはやった事が無い。
先ほど誓約書と引き換えに渡された鍵で、ようやく件の部屋に入ることが出来るのだ。

しっかりした造りの鉄扉を開けると、広いダイニングキッチンが現れた。
キッチンの奥にはリビングがあり、その奥には寝室。
3つの部屋はいずれも6・7畳はあり、4人家族でも暮らせそうだ。
カーペットや電灯など、必要な家財道具はすでに揃っている。

最奥の寝室はラブホテルそのものだった。
ダブルサイズのベッドに薄紫のシーツ。
寝室の脇にあるバスルームも広い。俺が以前住んでいたマンションの倍はある。
バスタブは2人が身体を伸ばせるほどで、洗い場も5・6人は入れる広さ。
スケベ椅子と壁に立てかけられたエアマットはソープを思わせる。
実際ここで少女がソープ嬢として仕込まれたり、ソープ風のビデオが撮影されたりしたんだろう。
そう思うと胸が高鳴った。
いや、なにも過去の話に限らない。明日以降もまたこの場所が、AVの撮影現場になるんだ。
俺に物件を紹介してくれたのは大貫という人だ。
大学時代からちょっとした縁で世話になっていたヤクザで、俺の兄貴みたいなものだった。
実際、俺は彼を親しみを込めて“兄貴”と呼んでいる。
その兄貴がマンションを訪れたのは、俺が入居してから2日目のことだった。

「どうだ慶、ここの住み心地は?」
兄貴は合鍵でドアを開け、遠慮なく部屋に上がりこんで言った。
『慶』というのは俺の名前、慶太の愛称だ。
「あ、うん、凄ぇいいよ。広いし、綺麗だしさ」
俺は突然の来訪に虚を突かれながらもそう答える。
そして兄貴の方を向くと、その後ろに誰かが立っているのが見えた。
女性、それもかなりの美人だ。

歳は20代半ばだろうか。俺より少しだけ大人びて見える。
胸元まで伸びた黒髪には、頭頂部辺りで天使の輪のように艶がかかっていた。
額にかかる前髪も細かに分かれ、さらりとした手触りが伝わるようだ。
瞳の輪郭は鮮やかだった。
鼻筋もすっと通っていて、口は固く結ばれているが、恐らくアナウンサーのように綺麗に笑えるタイプの唇だろう。
憂いを帯びた清楚さが滲み出るような、文句のない美女。

「……その人は?」
俺は当然そう聞いた。彼女の存在を無視できる男なんていないだろう。
「ああ、新米女優の『みのり』だ。今日からしばらく、ココで研修をさせてやろうと思ってな」
兄貴は薄笑いを浮かべて答えた。

彼のいう女優というのは、舞台女優のことじゃない、AV女優だ。
清楚な女性をAV女優として教育する。
兄貴が薄笑いを浮かべたのは、それが楽しみで堪らないからだ。
解りきった事だった、それでも俺は強い異常性を感じる。
それほどに、お嬢様然としたみのりさんはこの状況に似つかわしくないと思えた。

「……その人、どうしてこんな所に?」
俺は馬鹿げた質問を投げかけた。
答えてもらえるはずが無いし、それを知ってもどうにもならないというのに。
兄貴は一瞬間の抜けたような表情をし、次に小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「……さぁて、どうしてだろうな。
モデルを目指して上京した田舎娘を、だまくらかして連れて来た。
いいとこのご令嬢が、借金のカタに売られて来た。
あるいは見た目によらず、弄ばれる事に興奮する変態女だ。
好きな理由を考えな」
彼はそう吐き捨て、みのりさんの肩を抱いて寝室に歩を進める。
みのりさんは俯きがちにそれに従った。

本当にバカな質問をした、と思う。いくら兄貴と仲が良いとは言え、仕事に関する事柄だ。
俺が踏み込んでいい領域じゃなかった。
飄々とした人だから鼻で笑うに済ませたが、どつかれても文句は言えない。
でも、解っていてもそれをしてしまうぐらい、みのりさんは俺に強烈な印象を植え付けた。
兄貴は寝室のベッドに腰を下ろし、みのりさんに服を脱ぐように命じた。
彼女は抵抗と言うにはあまりに弱い、困ったような表情をしていたが、もう一度命じられると躊躇いがちに服に手をかける。
ベルトを外し、薄絹のような衣服が取り去られると下着姿が晒された。
驚くほどスタイルがいい。7.5頭身ほどのすらっとした身体つきだ。
肌の色は美しいクリーム色で、どこにも目立つ染みやホクロが見当たらない。
落ち着いた雰囲気は20台半ばを思わせるのに、身体の瑞々しさはまるで女子大生のそれだった。

下着姿になったみのりさんは、そこから一層の躊躇いをもってブラジャーのホックを外す。
さほど胸は大きくない。せいぜいBカップ程度だろう。
控えめな胸と、うっすら骨の透けるアバラ。よくAVで見るような洗練された裸とは違う。
でもそれは、本当に彼女がデビュー前の素人なのだと物語ってもいた。
すす、とショーツがずり下ろされると、こちらも品よく整えられた茂みが現れる。

みのりさんは脱いだ衣服を丁寧に畳み、ベッドの隅に重ねつつ、ショーツを上着の下に隠す。
そして乳房と繁みを手で隠しながら兄貴の方を向いた。
間違いなく育ちがいい女性の行動だ。
俺はつい、ほぅと息をついた。
素人だ。動きを見る限りみのりさんは、決して『脱ぎ慣れて』いない。
それどころか、殿方に肌を晒すなんて……などと言い出しそうな清楚さだ。

にも拘らず、なんと映像映えする身体だろう。
粗食ゆえか肉付きが甘いとはいえ、そこらに転がっているような素人モノのそれではない。
世に人気女優として取り沙汰される側のものだ。
もしも彼女がアダルトビデオに出たなら、間違いなく人気は爆発する。俺はそう確信した。
と同時に、女神の誕生の瞬間に立ち会っている現状を、夢のように感じもした。

「ふん、貧相な身体だ」
兄貴はみのりさんに憎まれ口を叩きつつ、その身体を抱き寄せた。
引き倒すようにベッドに座らせ、脚を開かせて股座に顔を近づける。
「い、いや!シャワーも浴びてないのに……!!」
当然みのりさんは拒絶するが、女の力でゴリラのような体格の兄貴を押しのける事はできない。
俺だって無理だ。

「洗う前に匂いを確かめンだよ。撮影に支障がねぇかどうかな」
兄貴は恥じらいの場所に鼻先を擦りつけて言う。
みのりさんの頬がほのかに赤らんだ。
「…………ふむ、匂わねぇな?こいつは上出来だ。肉とかあんまり喰わねぇのか?」
兄貴は秘部から顔を上げて問う。
みのりさんはなおも不満の色を消さず、その美しい顔を見ながら俺は、彼女の秘部からは一体どんな匂いがするんだろうと悶々としていた。
この時ばかりは兄貴の立場が羨ましくて仕方なかった。
兄貴は自分も服を脱ぎ、鍛えられた身体を露わにする。
色黒で筋肉質な男と、色白でほっそりとした女。
その並びは保健の教科書に出てくるほどに美しく、また何とも似つかわしい。

「みのり、行くぞ」
兄貴はみのりさんの腕を引いてバスルームの扉を開けた。
バスルームの戸が閉められると、それ以降は擦りガラスごしに男女の裸が見えるばかり。
その状況に、俺の悶々とした気持ちはますます募っていく。
ほんの少し向こうに裸のみのりさんが居るというのに、俺はただ見ているしかなかった。

体格が違うので、2つある人影の見分けは簡単につく。
今は大きい影が小さい影を背後から抱きかかえている。
腕の影が、小さい影の乳房や下腹、繁みを何度も往復する。
おそらくは泡まみれでみのりさんの身体を洗っているんだろう。
細身ながらも柔らかそうな身体だった。
控えめな乳房、腰のくびれ、太腿。水を浴びせればそのまま抵抗なく流れ落ちそうだ。

見知らぬ男に身体を洗われ、彼女の清楚な美貌はどんな表情を作るだろう。
兄貴は、ちょっと頭を前に出し、横を覗き込むだけでその表情を見ることができるのか。
「小せぇだけに感度がいいらしいな、この胸は」
兄貴の嬉しそうな声がバスルームから響いてくる。
その声を聞いたとき、俺の悶々とした気持ちはどうしようもなく高まった。
息が荒い。

俺は昂ぶりを抑えようと、ベッドに腰を掛ける。するとその手に何かが触れた。
薄い生地の上着。みのりさんが着ていたものだ。
どくん、と心臓が高鳴り、馬鹿な考えが脳裏を過ぎる。
バスルームの方を見やると、兄貴が浴槽の淵に腰掛け、みのりさんがその足元に跪いているようだった。
これからフェラチオを仕込むのだろう。
となれば、しばらくは浴室から出てこないはずだ。
その状況が、俺の悪戯心を強く後押しした。もう辛抱しきれない。
俺は浴槽の方を注意しながら、そっと衣服の山に手をかけた。
折り目も正しくきっちりと畳まれた上着をそのままに横へどけ、下に隠されたショーツを摘み上げる。
白と水色がストライプになったものだ。
AV女優が着けているにしては野暮ったい。彼女もまだ素人側の人間なのだ、と実感する。

鼓動を強めながら、俺はショーツを裏返した。
黄ばみも無く、おりものがついている様子もない。
そして恐る恐る股布に鼻に近づけて匂いを嗅ぐと、かすかに生々しい匂いが漂った。
「!!」
脳天を串刺しにされるような感覚が走り抜ける。何だろう、これは。
実のところ、俺はまだ女性経験が無い。女の下着の匂いを嗅いだのは初めてだ。
それでも、この匂いが特別なのはわかった。
決していい香りなどではない。でも、本能をくすぐるような、あそこに直接響くような匂いだ。
フェロモンと言ってもいいかもしれない。異常に、好ましい。

俺は盛りのついた雄犬のように、みのりさんのショーツを嗅ぎまわった。
何て浅ましい行為だ、と自己嫌悪が襲ってくるが、その感覚がさらに興奮を煽ってくる。
みのりさんのけして強くはない匂いが、何度も何度も脳天を突き刺す。

浴室の方からは、ぴちゃぴちゃとフェラチオの音が響いていた。
影の形から察するに、みのりさんは両手で逸物を握りながら先端をしゃぶっているらしい。
つまり、兄貴のモノは女性の2つの掌で包まれてなお、舐めるスペースがある長さという事になる。
俺は勃起しはじめた自分のモノを覗きこみ、妙な敗北感を覚えた。

「おら、もっとハデに音立つように工夫しろ!溜まったツバを麺啜るみてぇにするんだよ。
……ったく要領悪いなァ?んなおっとりしたフェラじゃ、見てるヤツは面白くねぇんだ。
AVってなぁハデな音と動きが全てなんだぜ!?」

浴室からがなり立てる声が響いてくる。
兄貴が誰かと電話している時たまに放つ、身の竦む怒声だ。
俺はそれを聞く時、普段飄々としている彼も、やはり歴としたヤクザなのだと再認識する。

「玉袋を口に含め……そうだ、口の中で転がすんだ。その裏にあるスジもなぞれ……。
……こっちを見上げてみろ、手元にばっか目線落とすんじゃねえぞ、カメラ映えしねぇからな」

兄貴は様々に注文をつけ、みのりさんへ徹底的にフェラチオを仕込んでいるようだった。
みのりさんは背を屈めて懸命に兄貴のモノをしゃぶっている。
新人のソープ嬢もこうして仕込まれるのだろうか。俺はそう考え、また興奮に見舞われる。
しばしフェラチオが続いた後、擦りガラスの向こうで兄貴の手が動いた。
手はみのりさんの髪を押さえつけるようにしている。
「んんお゛うっ!!?」
ふいにみのりさんがくぐもった悲鳴を上げた。
あの悲鳴の出方は……AVを見ていて何度も聞いた事がある。
喉奥まで突きこまれる、イラマチオの時に女性から発せられるものだ。
(兄……貴……?)
俺は思わずベッドから腰を浮かせる。
先ほどまでろくにフェラチオも出来なかったような人に、イラマチオは酷すぎるのでは。
危惧する俺をよそに、バスルームの中では容赦なく“それ”が始められた。

「おえ゛っ!!うううん゛ぇお、おお゛お゛んええぇぇ゛え゛!!!!」
バスルームにえづき声が反響する。
あのおっとりしたみのりさんが出しているとは思えないほど、汚く、必死な声。
「いちいち吐き出そうとすんじゃねぇ。口ぃ一杯に開いて、喉を開けんだよ!
今日びAVでディープスロートも出来ねぇってんじゃあ、話にならねぇんだ!!」
兄貴はがなり立てながら、みのりさんの後頭部を押さえつける。
長い黒髪に凄まじいストロークが生まれていた。
苦しくて吐き出そうとするみのりさんと、押さえつける兄貴、その鬩ぎ合いだ。

「おら、喉開けっつってんだろ?さっきからちっとも奥に入り込まねぇじゃねえか。息は鼻でしろ!」
「おぉお゛ええぇえ゛!!!んうお゛お゛え゛ッ!!!!」
兄貴の怒号と、みのりさんのえづきが交じり合っている。
俺はさっきとは全く別の動悸に苛まれていた。
俺よりもずっと長さがあるはずの兄貴の逸物を、あんなに激しく突き込んで大丈夫なのか。
みのりさんが壊れてしまうんじゃないか。
そう心配でならない。
そして、そこから長い長い数分が経った頃、異変が起きた。
「え゛おろおお゛ぉ゛っっ!!ッお゛、え゛はっ……!!!!」
一際奇妙なえづきが上がり、みのりさんの背中が忙しなく上下する。
びちゃびちゃと水っぽいものがタイルに落ちる音が響く。
そして兄貴の舌打ちが続いた。
「ちっ、こいつ吐きやがって!!仮にも他人の家だぞ、これテメェが綺麗に洗い流せよ。
……ごめんなさいごめんなさいって、俺に謝ってもしゃあねンだよ」
兄貴は忌々しげにそう言った。

どうやら彼女は、イラマチオに耐え切れず吐いてしまったらしい。
俺はただうろたえるばかりだ。
そしてそこで俺は、自分がまだみのりさんのショーツを手にしたままである事に気がついた。
俺はそれが急に恥ずかしく思え、急いで衣類の山に戻す。
その上に慎重によけていた上着を戻し、見た目は元あったままになった。
焦りながらもこういった部分で慎重なのは、つくづく小悪党らしいと思う。
でもだからこそこの後ろ暗い世界でやっていけるし、この現状に至る事も出来たわけだ。
もっとも、それが幸せな事かどうかは、解らなくなりつつあるけれども。

「よし、じゃあ出すモンも出してすっきりしたろ。もう一度行くぞ、そら、よ……!!
……お、なんだ?一度吐いて喉奥が柔らかくなってんじゃねぇかよ。滑りもいいしなァ。
っしゃ、どんどん行くぜ。しっかり目線だけはこっち向けるようにしとけよ。
ほら、奥へ奥へ、しっかり飲み込め、下は顎の方に引きつけてな。
ここ、喉奥だ。おら喉奥、喉奥、喉奥で……ッ!!」

兄貴は再びイラマチオを再開していた。
喉奥、喉奥、と暗示をかけるように繰り返しながら、鷲掴みにしたみのりさんの頭を前後させる。
みのりさんは最初こそ腕で兄貴を押しのけようと抵抗していたようだったが、
やがて観念したように床に手をついた。
えごっ、げごっ……とみのりさんのえづき声が浴室に響く。

「おお、いいぜ。吐きそうになって蠢く喉奥の感触がたまらねぇ。
後はこっちを見上げる事をもっと意識しろ、せっかくそそる顔になってんだからよ」
兄貴はみのりさんの口戯を褒め始めていた。
プロの風俗嬢相手でもそうは褒めない兄貴だから、本当に気持ちがいいのかもしれない。
極上の喉、兄貴はそれを見抜いて、だからあえてイラマチオまで仕込んだんだろうか。
その心地よさはどんなものだろう、マッサージよりいいのか。想像もできない。

そんな事をつらつらと思い描きながら、それでも俺の一番大きな感情は、
聴こえてくるみのりさんのえづき声から、苦しみの色が薄れていて良かった……という事だった。
長いフェラチオ特訓が終わった後、2人は浴室から出てベッドに移る。
みのりさんは、浴室でずっと裸を晒していた兄貴にはともかく、傍観する俺には強い恥らいを示した。
兄貴は湯冷めするからと室温を上げ、みのりさんに脚を開かせる。
「よく見せろ」
兄貴が粗野な口調で命じると、みのりさんはおずおずと股座を晒した。
鮮やかなピンク色の秘部。
兄貴はみのりさんの腿を手で押さえながら、やおらそこに口をつける。
「んっ」
みのりさんが小さく声を上げた。
兄貴は音を立ててみのりさんの秘部に舌を這わせはじめる。
みのりさんは人差し指を唇で挟んで声を殺していた。
俺はそんな仕草をする女性に会ったことがない。本当にいい所のお嬢様なんだろう。

しばらく、ぴちゃぴちゃという水音と、みのりさんの微かな声が続いていた。
兄貴は舌の他に指も挿し入れ、みのりさんの秘部を弄る。
しかししばらくして、呆れたように顔を上げた。
「……ほとんど濡れねぇな、お前。あいつの元にいて、処女ってワケもねぇだろう。
チッ……お淑やかなのは前準備に手間掛かって嫌いなんだがな」
兄貴はそうぼやき、持参した荷物からいくつかの道具を取り出す。
バイブに、ローター。いわゆる大人の玩具だ。

「いや、何ですかそれ……!!」
ヴーンと羽音を立て始めたローターに、みのりさんは新鮮な反応を示す。
「黙って股を開いてろ。すぐに良くなるからよ」
兄貴はそう言って、ローターを秘唇に押し当てる。
みのりさんの身体が恐ろしげに硬直した。
そこから兄貴は、バイブとローターを巧みに使い分け、指や舌まで駆使してみのりさんを蕩かしはじめる。
元々兄貴はセックス慣れした男だ。
名の通ったホステスが、兄貴でなければ満足しないと言うほどに。

濡れにくいとはいえ、その兄貴に責められては、流石のみのりさんにも変化が現れはじめた。
「ん……んッ」
押し殺したような喘ぎ声。口を押さえていた手がベッドの上部を掴む。
開ききった脚は直角に曲がり、足指がシーツに皺を刻む。
兄貴の指が淡みへ入り込むたび、白い尻がベッドを軋ませる。
長い、長い蕩かし。

「……もう……もう、やめて……!!へ、変に……なるっ……!!」
みのりさんがとうとうそう声を漏らした頃、シーツにはしっかりと愛液の地図が描かれていた。
「ようやく準備ができたらしいな」
兄貴はそう言って粘液に塗れた指を引き抜き、その粘液を自分の剛直に塗りつける。
いよいよセックスの始まりだ。

みのりさんは仰向けに寝た兄貴に、自ら腰を下ろすよう命じられた。
「こ、怖い……!!」
みのりさんは兄貴と腿を擦り合わせながら恐怖に脅える。
しかしその尻を無言で叩かれると、観念したかのようにゆっくりと腰を沈めた。
にちゃあっ……という生々しい音で、結合が始まる。
明らかに俺の全勃起時より大きい逸物が入り込む。
「お……大きい……!!」
みのりさんはそう漏らして眉を顰める。
だが一度入り込むと後はスムーズで、程なくして兄貴の浅黒い逸物は見えなくなった。
みのりさんは逸物の大きさに苦しんではいるものの、破瓜の痛みを感じている程でも無いように見える。
その事実がまた俺の妄想を掻き立てた。
借金を理由に脅され、ヤクザ者の手で無残に純潔を散らすみのりさんを夢想した。

現実のみのりさんは結合の後、命じられるまま腰を使い始める。
兄貴の分厚い胸板に手をつき、尻を上下させて。
「おら、尻を浮かすだけで誤魔化すな、膝の屈伸で抜き差ししろ。
もっと腰を使え、上下に、前後に!てめぇの中を捏ねくり回すんだよ!!
顔も上げろ、それじゃあ髪に顔が埋もれてカメラに映らねぇぞ!!?」
兄貴はみのりさんの騎乗位に口煩くダメ出しを喰らわせる。
「ん……んんっ……!!」
みのりさんは恥ずかしさからか泣きそうになりながら腰を使っていた。
その情景は、それがただの性交ではなく、カメラに映す事を前提とした“研修”なのだ、と改めて俺に認識させる。

ぎしっぎしっぎしっぎしっ。

ベッドの軋む音が遠くで延々と鳴り響いていた。
みのりさんは何度も何度も腰を上下させる。
たまに表情が険しくなるのは、痛みからか、それとも逆に達しそうになっているのか。
やがて彼女が汗みずくになった頃、兄貴は強い力でみのりさんを脇に避ける。
「体位を変えるぞ。降りてベッドに肘をつけ」
そう命じ、みのりさんが言うとおりにすると、背後から腰を掴んで逸物を突き入れた。
「きゃ、深いっ!!」
みのりさんが小さく叫ぶなか、逸物はぐじゅりと音を立てて奥まで捻じ込まれる。
そしてまた、今度は獣のような体位での“研修”が始まった。
「うっ……ん、ぁ!!」
みのりさんの押し殺した喘ぎ声が響いてくる。
彼女は浅ましい声を上げまいと、必死に唇を結んで耐えていた。
だがそれをまた兄貴に叱咤される。
「おい、もっと声を上げろ。過剰でもいい、大っぴらに息を吐いて喘げ」
兄貴はしっかとみのりさんの腰を掴み、深々と結合を繰り返しながら命じた。
確かに、AV女優として調教するなら当然の事だ。
音を消してAVを観るとまるで興奮度が違うように、女優の喘ぎと言うのは映像に於いて重要なファクターだ。
特に、みのりさんのような真面目そうなタイプが喘ぐ様は興奮度も高い。

「あっ、あ、ああっ!!」
みのりさんは言われた通り声を殺すのをやめた。しかし兄貴は満足しない。
「もっとだ、もっと聴こえるように喘いでみろ!!」
突き込みをより深めながらそう命じる。
「うん、あ、ああ、あああっ!!」
みのりさんはさらに大きく声を上げ始めた。近くで聴いていると煩いほどだ。
AVの現場というのはそれほどなのだろうか。
しかしその甲斐あって、みのりさんの喘ぎは実にそそった。
元々透んだいい声をしているが、それに艶が混じっている。さらには荒い息、鼻に掛かったような声も。
ビデオに撮って確認するまでもなく、『エロさ』という点では最初よりグッと増している。

声を調教しながら、兄貴は存分にみのりさんへ性感を叩き込む。
みのりさんが声を高めているのは、完全に演技というわけではない。
バックから犬のように突き続けられ、脚は震え、腰は艶やかに蠢く。
すらっとした脚を透明な雫が流れおちる。
第三者の目からでも明らかに感じているのが見て取れた。

「……だ、だめっ!!ああ、何これ、へ、変になるぅっ!!!」
やがてみのりさんは、ベッドに手を突きながら震え上がる。
イクんだろう、と俺にも解った。
「覚えとけ、それがエクスタシーってやつだ。“イク”、とも言うな」
兄貴は自身の物でみのりさんの内部を確認するように動かし、そう教える。
「い、いく……?いく、いくっ……!!!ああ、いくうっ!!!」
みのりさんの身体がぶるりと震える。
その一瞬の動きがどれほど美しかったか。俺の目には、それが今でも焼きついている。
おそらく初めての絶頂を迎え、みのりさんの足腰が崩れると、兄貴は場をベッドの上に戻した。
そして汗まみれのみのりさんを腰から折り曲げるようにする。
つまり、足先が肩の方へ向くように……まんぐり返しというやつだ。
その状態で蕩けきった秘部へ大きな逸物を沈み込ませる。

「や、やめて!休ませてください!!変なんです、さっきの感じがまだ、収まらなくて……!!」
イッたばかりのみのりさんは拒絶を示す。でも兄貴が許すはずもない。
「おいおい、こんな程度でもうダメなんつってたら、AV女優は勤まらねぇんだよ。
今日び一日中撮影しっぱなしのAVなんてザラにあんだ。こんなもんじゃねえぞ」
そう凄みながら、押し潰すようにして秘唇を割る。
みのりさんはそれだけでびくんと肩を跳ねさせた。

「あっ、あっ、ああ、あーっ……!!!」
もはや兄貴が煩く言うまでもなく、みのりさんの艶やかな声が部屋に響く。
ぐちゃっぐちゃっと聴くだけで変な気分になる結合の音も。
兄貴は折り曲げたみのりさんの脚を掴み、淡々と抜き差しを繰り返している。
しかし淡々として見えるのは表面だけで、膣の中では様々に技巧を凝らしているのだろう。
みのりさんの何度も強張るふくらはぎや宙を掻く足指を見ていると、そうだとしか思えない。
「あああーっ!!!」
みのりさんの高い声が今一度響いた。
気持ち良さそうな顔だ。
目をぎゅっと瞑り、大口をあけ、その口の端から涎さえ垂らしている。
初対面での清楚さが嘘のような変わりよう。でもそれも間違いなく、みのりさんの作りえる表情なんだ。
そう考えると、俺は何とも妙な気持ちに苛まれる。

シーツに流れるみのりさんの髪は本当に艶やかで、まるで漆の川のようだ。
このむうっと漂う匂いは、その綺麗なみのりさんの大事なところから流れてきたのか。
今のあの表情は、脚の動きは、どんな快感を味わっての事なのだろう。
目の前で繰り返される行為自体は単調ながら、得られる情報は俺にとって多すぎた。
俺は痛いほどに勃起した物を手の平で押さえつける。
「ああ、あう、あううぅっ……!!!」
切ないようなみのりさんの喘ぎが、逸物の痛みに拍車をかけた。
何時間が経った事だろう。
みのりさんと兄貴は、互いに汗まみれになってベッドに折り重なっていた。
その汗は二人が共同作業をこなした証だ。
共に快感を与え合い、包みあって結合していた。ついさっきまで。
俺は疎外感に苛まれながら、二人がゆっくりとバスルームに入っていくのを見守った。
セックスを見始めた頃の俺なら、ここでそっとシーツに近寄ってみのりさんの匂いを嗅ぎたいとでも思ったものだろうけれど、今はもういい。
そうするまでもなく部屋中に漂いすぎている。俺の思考を包み込むほどに。
「世話かけたな、慶。だがついでに、ベッドの後始末も頼むぜ」
兄貴は着たときの服に身を包んで俺に言った。
当然ながらみのりさんのその後ろに、来た時の格好でいる。
そう、格好は同じ。しかしその頬はなお赤く、俺の想像の中の彼女もまた、変容している。
「解ったよ。……兄貴は、これからどこに?」
俺が聞くと、兄貴はみのりさんを肘でつついて溜息をついた。

「調教の続きだ。ああ生娘みたいなんじゃ、思った以上に手間が掛かりそうだからな。
胸にしても感度は悪くねぇが、プロの女優にしちゃ小さすぎる。
まぁまずは豊胸手術して、舎弟のフロ屋ででも働かせてみるか。
好きモンだから公私ともにさんざ使いやがるだろうし、ボーイ相手に経験も積ませられるからな」

兄貴は薄笑いを浮かべながらそう言い、硬い表情になったみのりさんの肩を叩く。
そして俺に手を振り、揚々と扉を閉めた。
みのりさんの姿も見えなくなる。部屋の中にはまだ、嫌になるほどその匂いが残っているというのに……。